医療過誤,大阪

2015年3月29日 (日)

大阪でもあった腹腔鏡手術を原因とした死亡事故(証拠保全手続き)

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大阪の弁護士です。

腹腔鏡を原因とした死亡事故は,群馬大学附属病院だけではありません。
大阪の某医科大学附属病院の手術でも死亡事故がありました。
本件は,既に,訴訟提起後,裁判所の和解案により,被害者遺族の勝訴的和解により,解決しております。
腹腔鏡手術を病院及び医師がやりたがる理由は,次のとおりです。
1 点数が高い。
2 開腹手術が1日1~2件程度しか出来ないのに対し,腹腔鏡手術であれば,数件行うことが可能です。
3 入院日数が少ないので,病床の回転率が多く望めます。
これに対して,患者側の利点は,
1 侵襲が開腹手術に比べて少ないこと
2 傷口も小さいため,退院までの日数が少ないこと
です。
しかし,医療機関側が説明をしない大きなリスクが患者にあります。
1 腹腔鏡手術は,視野が狭いため,高度の技術が要求されます。
これに対して,開腹手術の場合には,全面肉眼下で手術を行えます。
特に,腹腔鏡手術の場合,当職のような肥満体型の場合,腹腔鏡下では,白い脂質の中(霧の中)を進むように,進まなければなりません。
ただでも,腹腔鏡を通じての視野しか確保出来ていないので,この困難さをご理解いただけるでしょうか。
2 腹腔鏡下での縫合も難しいのです。
→縫合が上手くいかない場合,その部位から,出血を起こし,死亡に至るケースが多いのです。
本件も,縫合不全による出血を放置したため,死亡に至ったケースです。
今回は,当職が経験した腹腔鏡手術を原因とした縫合不全による出血を原因として死亡した事例を紹介します。
医療事故を疑った場合には,
電話 06-6136-1020
へ,ご相談下さい。
医療過誤事件は,専門的な知見と技術が必要です。
次のサイトも参考にして下さい。
 
 
 
                          証拠保全申立書
                                                      平成20年7月  日
大阪地方裁判所民事部 御中
大阪府(以下,略)
                                  申 立 人     甲         
〒530-0041 大阪市北区天神橋二丁目5番25号
             若杉グランドビル7階
                                      佐野・吉田法律特許事務所(送達場所)
                                  申立人代理人弁護士 佐  野  隆  久
                                            電話 06-6136-1020
                                            FAX 06-6136-1021
大阪府守口市(以下,略)
                                  相 手 方   乙           
第1 申立ての趣旨
  1 相手方が設置する丙病院に臨み、亡被害者の治療にかかる平成19年3月9日から同年3月27日(死亡)までの間の相手方保管の別紙検証及び提示を求める書類及び電磁的記録等目録記載の書類及び電磁的記録等について検証する。
  2 相手方は、上記検証物を検証期日に提示せよ。
  との裁判を求める。
第2 申立ての理由
  1 証すべき事実
    (1) 当事者
      ア 亡被害者は、丙病院の医師から医療被害を被った者である。
      イ 亡被害者の相続人(申立人)について
          申立人は、亡被害者の相続人(実母)である(疎甲1号証)
      ウ 相手方は、送達先において、丙病院を開設している。
      エ 亡被害者の関係者について
        (ア) 甲2は、亡被害者の実妹である(疎甲1号証)。
        (イ) 甲3は、亡被害者の実弟である(疎甲1号証)。
    (2) 本件の事実経過
      ア 平成19年3月9日、亡被害者は、大腸癌(上行結腸癌)が判明し、相手方病院に入院した。
      イ 平成19年3月13日、亡被害者は、腹腔鏡手術による患部の切除手術を受けた。
      ウ 手術中出血(約1500ml)を生じたことから、開腹手術に変更され、患部切除については、無事終了した。
      エ 手術後、亡被害者は、「寒い、寒い」等を繰り返し訴えた。しかし、相手方病院による止血等の大量出血に対する措置はなかった。
      オ 平成19年3月14日6時頃、亡被害者は、心肺停止に陥った。
      カ 蘇生術により、亡被害者の心臓は動作し始めたが、その後、意識は戻らなかった。
      キ 平成19年3月27日午前1時31分、亡被害者は、急性循環不全により死亡した(疎甲12号証)。
    (3) 相手方の亡被害者に関する資料の開示
      ア 甲2及び甲3は、亡被害者に対する施術の内容が大腸の腹腔鏡手術であったにもかかわらず、亡被害者が心肺停止に陥るのは、不自然だと考え、相手方病院に対して、亡被害者に関する資料の全ての開示を申し出た。
      イ 平成19年5月頃、相手方病院は、甲2及び甲3の申出に応じて、亡被害者に関わる診療録及び映像(CD)を開示した。
    (4) 申立人による協力医師の意見の聴取及び資料の一部不開示の発覚
        申立人は、申立人代理人弁護士佐野隆久を通じて、以前大阪市立大学附属病院第2外科(消化器外科)に勤務し、現在、大阪市内の私立病院において、消化器外科を担当している協力医師に、本件亡被害者の死亡に関して不自然な点はないかとの意見を聴取した。
        すると、同協力医師から、次の資料が欠けているとの指摘があった。
        ① 腹腔鏡手術に関するビデオを初めとする手術に関する記録
        ② 輸血に関する記録
        ③ 術当日夜及びその後の血液ガス、電解質、肝機能などの生化学に関する記録
        これらの記録は、亡被害者の死因を特定し、相手方病院の医療の過失の有無の判断に必要な資料であるとの指摘を受けた。
    (5) 相手方の過失
      ア 前述のとおり、相手方病院は、亡被害者の実妹甲2及び実弟甲3が亡被害者に関する全ての資料の開示を求めたにもかかわらず、過失の判断の上で必要な資料の殆どを開示しなかった。
      イ そのため、相手方病院の医師の過失の有無の判断は、現段階では、不明であるが、相手方病院の過失について概説しておく。
      ウ 相手方病院の医師は、医師として診療上必要とされる最善の注意義務を要求されている。これを本件に即して概括的に述べれば、次のような注意義務がある。
        (ア) 診断義務 患者に対する適切な検査を経て、鑑別診断を行い、患者の正確な病態診断を行う義務がある。これは、医療機関が患者に対する最善の管理・診療を行うに必要不可欠の義務である。
        (イ) 管理・診療義務 患者に対する正確な診断を経て、最善の管理・診療を行う義務がある。
      エ 相手方病院医師の術技及び術後の管理義務違反
          相手方病院の医師は、次のとおり、亡被害者に対する術技を誤った可能性が高い。
          すなわち、亡被害者が受けた腹腔鏡手術は、出血が少ないなどの患者の身体への侵襲が少ないことを理由として選択されるものである。
          しかし、本件では、亡被害者は、手術中に1500mlもの出血を伴っている。これは、体重80kg男性の体内の血液量約6000mlの約25%にも達するものであり、出血性ショックを生じかねない状態であった。
          本件が、仮に、出血性ショックに起因する心停止であれば、相手方病院医師は、軌道、呼吸の管理を行いつつ、保温に努め、止血を行い、輸液療法を実施し、20%~40%の循環血液量減少の場合には、輸血の措置を行うことが必要であり、これらの措置により、出血性ショックを防止して、心停止の結果を回避することが可能であった。
          しかし、止血の措置がないままに、亡被害者は、手術日の翌日に心停止に至り、これを原因として低酸素脳症に陥り、その後死に至ったのである。
          このように、判断材料の不足している現段階では、相手方病院医師の過失を明言するのは困難である。しかし敢えて相手方病院医師の過失を特定するならば、相手方病院医師は、亡被害者に対して、多量の出血を招来させ、加えて、術後の止血等の措置を欠くという術後管理義務違反があったといいうる。
 
  2 保全の必要性
    (1) ところで、医療過誤訴訟においては、診療上作成された資料は、重要な証拠である。
       申立人が、相手方の亡被害者に対して行った治療の経過がどのように記録されているかを知ることは、相手方の過失立証をするについて不可欠である。
       また、診療上作成された資料の中には、その保存期間が法定されているものがあり、年月の経過とともに廃棄又は紛失の可能性が高くなる。
    (2) 相手方の立証妨害
        特に本件においては、前述のとおり、相手方病院医師の過失を立証するには、次の資料が必要である。
        ① 腹腔鏡手術に関するビデオを初めとする手術に関する記録
        ② 輸血に関する記録
        ③ 術当日夜及びその後の血液ガス、電解質、肝機能などの生化学に関する記録
        しかし、相手方病院は、甲2及び甲3が亡被害者に関する全ての資料の開示を求めたにもかかわらず、過失を立証するのに必要不可欠な資料を開示しなかった。
    (3) さらに加えて、相手方病院は、亡被害者が死亡に至った原因を不明であると説明するのみで、その原因となった診療の内容を申立人に説明せず、また、死亡に至った原因を証明する上で必要な資料を開示しようとしない。
       もし、このまま診療録等の開示がなされない時には、相手方が亡被害者に対して行った医療過誤が闇に葬られてしまうばかりか、診療録等の改竄の恐れさえある。
    (4) よって、申立人は、相手方に対し、申立ての趣旨記載のとおりの決定を求めて、本申立てに及ぶ。
語句の説明
1 循環血液量 【英】total blood volume
    体全体の血管内にある血液の量.循環赤血球量と循環血漿量を別々に測定し,その和を循環血液量とする方法が正確である.それぞれの測定法は希釈法である.
    いずれかを測定し,ヘマトクリット値を用いて循環血液量を算定する場合もある.その場合には静脈血のヘマトクリット値(静脈ヘマトクリット値)に0.92を掛けた体ヘマトクリット値を用いる.正常値は65.7±1.6 mL/kgである.
【南山堂 医学大辞典第18版】
2 出血性ショック 【英】hemorrhagic shock
    大量の外出血または内出血によって循環血液量が減少して起こるショック.〔循環〕血液量減少性ショックhypovolemic shockの代表的な例.出血初期には脈拍頻数・乏尿・不穏状態から始まり,やがて収縮期血圧がいわゆるショックレベルの90~100mmHg以下に下降すると,顔面や四肢などの末梢皮膚は蒼白となり,冷たくじっとり汗をかく(cold and clammy).無気力・無力状態となり立位・座位が保てなくなる.呼吸は弱く,浅く頻数となり重篤になるとあえぐような呼吸となる.本病態は循環血液量の減少から静脈還流venous returnの低下をきたし心拍出量の減少を招くことによって末梢組織への血流,酸素の供給が不十分となることによって起こる.低血流は皮膚・内臓領域などから始まりやがて腎,その他の生命臓器への血流が不十分となる.この生命臓器への血流状態のよい臨床的指標が収縮期血圧である.収縮期血圧が80mmHg以下になると腎血流が急速に減り,50~60mmHg以下になると冠血流,脳血流が急速に減って生命を保てなくなる.また脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)は30mmHg以上あるのが正常であるが,出血性ショックでは心拍出量の減少に並行して小さくなる.出血性ショックの重篤度は出血の量と低血流におかれた時間によりきまる.低血流・酸素欠乏状態下では代謝が嫌気的となり乳酸が蓄積して乳酸アシドーシスとなる.この血中乳酸濃度は重篤度の指標になる.臨床血液検査上の所見としては有形成分の減少,すなわちヘマトクリットの低下と代謝性アシドーシスが特徴的である.
    〔治療〕 確実な止血と輸液・輸血,障害された生命臓器機能の維持が原則である.
【南山堂 医学大辞典第18版】
                              疎 明 資 料
1  疎甲第1号証 改製原戸籍謄本
2  疎甲第2号証 改製原戸籍謄本
3  疎甲第3号証 除籍全部事項証明書
4  疎甲第4号証 改製原戸籍謄本
5  疎甲第5号証 戸籍全部事項証明書
6  疎甲第6号証 戸籍全部事項証明書
7  疎甲第7号証 戸籍全部事項証明書
8  疎甲第8号証 相続放棄申述受理証明書
9  疎甲第9号証 相続関係図 
10 疎甲第10号証 陳述書(亡被害者の実妹甲2作成)
11 疎甲第11号証 協力医師の意見書
12 疎甲第12号証 死亡診断書(写し)
13 疎甲第13号証 患者個別カルテ情報(写し)
14 疎甲第14号証 内科学Ⅳ 血液、神経系、環境要因・中毒
                      発   行 朝倉書店
                      発行年月日 2007年9月4日
                      7)出血性貧血(1629頁)
15 疎甲第15号証 標準生理学
                      発   行 医学書院
                      発行年月日 2006年2月15日
                      1 血液の組成と量(484頁)
                          男性の血液に関する標準値 
                          血液量 75ml/kg体重
                      2 ショック(619頁~621頁)
16 疎甲第16号証 今日の治療指針(2008年版)
                      発   行 医学書院
                      発行年月日 2008年1月1日
                      出血性ショック(16頁)
17 疎甲第17号証 消化器疾患最新の治療(2005-2006)
                      発   行 南江堂
                      発行年月日 2005年2月25日
                      14 大腸癌 b.結腸進行癌(251頁~255頁)
                              添 付 書 類
1 疎明資料写し                             各1通
2 履歴事項全部証明書(乙)           1通
3 委任状                                     1通
  検証及び提示を求める書類及び電磁的記録等目録
1 診療録、手術録、処置録
2 問診票
3 看護記録
4 医師指示票、医師指示簿
5 診断書控え
6 処方箋
7 医師引継書
8 病院日誌、病棟日誌
9 レントゲン写真、MRI写真
10 手術を撮影したビデオ
11 麻酔記録
12 諸検査の検査票、写真等
13 レセプト控え
14 手術承諾書
15 その他診療に関しての一切の記録

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